身体が語るメッセージ:「威嚇」と「愛嬌」の奥深い身体コード

こんにちは、マイムアーティスト・講師の織辺真智子です。

今日のテーマは、「”威嚇”と”愛嬌”の身体コード」です。動物たちは、敵を追い払ったり、仲間と仲良くなったりするために、さまざまな身体表現を使いますよね。今回は、一見すると正反対に見える「威嚇」と「愛嬌」という二つの身体コードが、どのように機能し、どのようなメッセージを伝えているのか、その共通点と違いを探っていきましょう。

「威嚇」と「愛嬌」— 動物の行動に潜む二つの身体コード

動物の行動において、「威嚇」(Threat Display)と「愛嬌」(Affiliative Behavior / Appeasement Behavior)は、それぞれ異なる目的を持つ重要な身体コードです。しかし、その根底には、相手に特定のメッセージを伝え、関係性を構築するという共通の機能があります。

相手を圧倒する「威嚇」の身体コード

まず「威嚇」についてです。威嚇行動の主な目的は、攻撃をせずに相手を退散させたり、自分の優位性を示したりすること。動物は、自分が実際よりも大きく見せることで相手を怖がらせようとします。

具体的な例としては、ネコが毛を逆立てて体を膨らませ、背中を丸める「フーッ」という姿勢が挙げられます。これは、相手に対して「私はこれだけ大きくて強いぞ」というメッセージを送っています。また、イヌが唸り声を上げ、歯を剥き出しにするのも典型的な威嚇行動です。これ以上近づくと攻撃するぞ、という警告のサインですね。

これらの威嚇行動は、実際に争うことによる怪我のリスクを避けるための、ある種の「ブラフ」や「演技」と捉えることもできます。動物界では、多くの種で実際に戦う前に、相手を威嚇し、どちらが強いかを「見せ合う」ことで決着がつくことが少なくありません。これは、まるで将棋の駒を並べながら、相手に自分の強さを見せつけるようなものです。実際に刀を交えなくとも、その構えや気迫で相手を圧倒しようとする、まさに「見せる表現」の極致と言えるでしょう。

絆を深める「愛嬌」の身体コード

次に「愛嬌」についてです。愛嬌行動は、相手との良好な関係を築いたり、敵意がないことを示したり、争いを避けたりするために行われます。こちらは、自分を小さく見せたり無害であることを示したりする行動が中心となります。

例えば、イヌが飼い主にお腹を見せて横たわる行動は、究極の服従と信頼のサインです。お腹は動物にとって最も無防備な部分であり、そこをさらけ出すことは、相手に全く敵意がなく、自分はあなたを信頼している、というメッセージを強く伝えます。子犬がじゃれてきて、お腹を見せるのも愛嬌行動の一つですね。

また、サルが社会的なグルーミング(毛づくろい)を行うのも、愛嬌行動の一種です。これは単に体を清潔にするだけでなく、個体間の絆を深め、社会的な緊張を和らげる重要な役割を担っています。自分から相手に近づき、無防備な姿を見せることで、相手に安心感を与えるのです。これは、パントマイムにおいて、身体の力を抜いて柔らかい動きをすることで、観客に親近感や安心感を与えることと共通しているかもしれません。身体が固く緊張していると、どうしても威圧的に見えてしまうことがありますからね。

威嚇と愛嬌の境界線—複雑なコミュニケーション

興味深いのは、威嚇と愛嬌という正反対の行動が、状況によっては非常に微妙な形で混在したり、切り替わったりすることです。例えば、子犬がじゃれつく際に、遊びながら唸り声を上げたり、少しだけ歯を見せたりすることがあります。これは、遊びの範疇であることを示しつつも、相手に「これ以上はダメだよ」という境界線を示す、非常に複雑なコミュニケーションなのです。

このように、動物たちは身体の大きさ、姿勢、表情、声のトーンなどを巧みに操り、「威嚇」と「愛嬌」という対照的なメッセージを効果的に伝えています。これらは、言葉を持たない動物たちが社会生活を円滑に進めるための、まさに洗練された「身体コード」と言えるでしょう。

まとめ:身体が伝えるメッセージの奥深さ

今日のまとめです。「威嚇」は、自分を大きく見せたり、攻撃的な姿勢を示したりすることで相手を退散させ、争いを避けるための身体コードです。対して、「愛嬌」は、自分を小さく見せたり、無防備な姿をさらけ出したりすることで、友好関係を築き、安心感を与えるための身体コードです。これらは目的は異なりますが、どちらも相手に特定のメッセージを伝え、関係性を構築する上で重要な役割を果たします。パントマイムにおいても、身体の大小、緊張と弛緩を使い分けることで、多様な感情や状況を表現することができます。

今回もご視聴いただき、本当にありがとうございます。動物たちの「威嚇」と「愛嬌」の身体コードから、非言語表現の奥深さを感じていただけたなら嬉しいです。